予期せぬ役替わり公演『1789-バスティーユの恋人たち-』

星組『1789-バスティーユの恋人たち-』を観劇したので感想。

偶然取っていたチケットが8/19、代役公演初日昼公演というなかなかにレアな配役の回でした。元々観劇は一回きりのつもりでしたが代役公演を見たら、代役で活躍されていた方々の本役(?)姿も見たくなり結局配信を購入した。

 

 

https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2023/1789/index.html

 

宝塚・東宝問わず『1789』を見るのは初めて。(以前から興味があって東宝版のチケットを取ったけれどコロナで中止になった。)

今回もチケットが取れたときからずっと楽しみにしていたけれど、2年連続夏に取ったチケットが公演中止で消えていたので、公演中止の知らせが出たときはかなりどきどきした。無事に公演が再開されてうれしいけれどトップスターの礼さんは休演、代役の方々にかなり無理をさせて幕を上げるのは明白だったので、そういう意味でも緊張感。

当日の客席はやっぱり(どうなるんだろう…)という緊張感があるように感じた。

 

だけど幕が上がると、トップ代役の暁さんを筆頭に三日で仕上げたとは思えないほどに安定していて、元々代役と知っていった暁さん以外は初見では誰が代役かわからない出来だった。(元々代役稽古はされていたんだろうけれど、実際にお客を入れた舞台で三日で覚悟を決めて、あの公演ができることは本当に尊敬。)

 

初めて見た感想としては、それぞれの立場を丁寧に掬いあげているお話だという感想。あと楽曲こそ明るく盛り上がるものの、想像よりも重い話だった。フランス革命は、革命後の経緯や血なまぐささからも、イギリスやアメリカの革命と比べて重苦しい…。

脚を踏み鳴らし、手を打ち鳴らすダンスもお洒落でかっこよかったけど、フィナーレがなければそれでもなかなかに後味が悪そう。いつもありがとう宝塚のフィナーレ。

ストーリーは球戯上の誓い、三部会の招集、バスティーユ襲撃などわかりやすくまとまっていてフランス革命を学ぶ足がかりになった。

 

政権を倒すためには同じ平民身分として力を合わせる必要があるけれど、農民側からは衣食住にも困り、日々を農作業に費やす暮らしに精一杯の自分たちと、衣食住の心配をすることなく理想を掲げ、寄宿学校で高等教育を受けた代議士の彼らは「同じ」ではないだろう。彼らに「僕たちは一緒だ。王政に苦しめられている仲間だ。」と言われてもケっとひねくれたくなる気持ちは想像がつく。

一方で農民側から見たら「恵まれている」彼らにだって悩みも苦しみもあるから、きっと「恵まれている」と言われたら反発は生まれる。それでも時代を変える上では立ち上がる人が必要だし、日々の暮らしで精いっぱいの人間が最初に立ち上がるのは難しい。

だから手を取り合うしかないんだけど……難しいな、みたいなことをロナンと革命家のやり取りを見ながら考えていた。

ロナンが「俺たちはその頃、飢えに苦しんでいた…!」とカミーユ達と仲たがいする場面、革命家側は「俺たちは、君たちを救ってあげるために」と言っている。"あげる"という無意識の上から目線が、同じ立場で戦う難しさを示していると思う。でも革命家たちは本来は安全地帯に隠れられるにも関らず、その立場を捨ててリスクを取って戦っている誇りもきっとあるし……。歴史上いろんな国、色んな時代で見られる構図だけれどやっぱり難しい。

そして、贅を尽くして国民を苦しめているマリー・アントワネットもまた幸福で何の悩みもない人ではないのだ。(それでもその日の食事に困る人々から見たら、すごく恵まれていることは間違いないけれど。)

 

◆役について

 

・ロナン:礼 真琴/暁 千星

    暁さんのロナンは終始怒りが感じられた。父を殺した国への怒り、自分への怒りが根底にあって、でもその怒りをどこにぶつければいいのかわからない。そんな風に見えた。エネルギッシュで、情感豊かで直情的。妹を置いて村を飛び出したとしても誰も驚かない、自分の気持ちに正直な青年。考えは浅いけれどフットワークが軽い。パワフルな大型犬みたいで、「兄弟だ」と言ってもらった時の嬉しそうな顔、「俺はその頃飢えていた」と、仲間が結局は自分とは違うと気づいた悲しみ。表情豊かでかわいい。

舞空さんとは身長差があるのもあって並びが綺麗で、あとロナンとオランプが愛し合ってもなお分かり合えてない(ロナンはオランプの王家への忠誠心が最後までわかっていない)感じが出ていて

よかった。

 

一方で礼さんのロナンは暁さんに比べると哀しみが前面に押し出されているように感じた。心優しく思慮深い青年が父を殺されたことをきっかけに町を飛び出した。だけど本質は穏やかで落ち着いた、後先をきちんと考える人。妹を置いて村を飛び出したと聞いたら周りの人は驚くような男性。

私は星組の観劇回数は多くないけれど、礼さんはいつも思慮深く、それ故に悩み苦しむ役をされていて、それが礼さんの持ち味なんだろうな。オランプと惹かれあっていく演技も丁寧で、オランプがロナンに惹かれていくのに納得感がある。

 

カミーユ・デムーラン:暁 千星/天華 えま

   この役替わりが見たくて配信を購入したといっても過言ではない。

 あの直情型のロナンが、本来はどんなカミーユを演じているのかが気になって仕方がなかった。

 天華さんのデムーランは優雅で貴族的な理想主義者。理想の未来を思い描き、その実現のために一歩一歩進んでいく。お金持ちならではの無意識の傲慢さはあれど、それを指定されたら傷つきながらも受け入れる。ロナンとの仲たがいの場面もショックを受けた悲しそうな姿が印象的だった。優しく誠実な人柄で人をまとめ上げる感じで、個人的に大好きな人物像。

 

一方で暁さんのデムーランはギラギラ、正義感に燃えていて人を率いるリーダーシップに満ち溢れている。カリスマで、ロナンとの仲たがいの場面にも「怒り」が滲む。だけど物語の途中で、自分の無意識の傲慢さに気づき「やれやれ」と自分に肩をすくめるような、自信に満ち溢れるデムーラン。

 

こんなにアプローチの違う二人のデムーランが見られたのは贅沢な体験でした。

 

ジョルジュ・ジャック・ダントン:天華 えま/碧海 さりお

 碧海さんだけ、陣営が変わる代役(王宮陣営⇒民衆陣営)で一番覚えなければいけない歌がきっと多かっただろうに、安定感ある演技がすごい。革命家陣営のムードメーカーというか、程よい三下感が上手で首席ってすごいなぁ。

 

 天華さんのダントンは 「あの優雅なデムーラン役の方が…!」といい意味でのギャップがあった。蓮っ葉で、他二人の革命家に比べるとかっこよさが劣る代わりに親しみやすいお兄さん。娼婦に入れ込むところや、彼によってソレーヌが変わっていくところからも民衆と革命家の架け橋役なのだろう。

 

マリー・アントワネット有沙 瞳

 深みのある演技がすごかった。王族がただの愚かな悪者に見えないのは彼女の存在感のおかげだと思う。王妃の哀しみや苦悩が見えることで愚かだけど、悩み苦しむ同じ人間なんだと感じられるというか。

「すべてを賭けて」では無邪気なお姫様のように笑いながらも、自分の存在意義や人生の意味がわからない悲しみを滲ませるのも素敵だったけど、後半が本当にいい。

オランプには幸せになってほしいと願う姿、美自分の人生の意味は王に最後まで付き従い、王妃との役目を果たすことだと気づいて、運命を受け入れた笑み。笑顔で無数の感情を表現するの、本当に演技が好きでお上手な方なんだな。

 

シャルル・アルトワ:瀬央 ゆりあ

 瀬央さんの演じる悪役が好きです。ロミジュリのティボルトをされているときもずっと見とれていた。美しい人だけれど悪役をされているときのオーラと華が圧倒的だと思う。一人でセンターで歌っても寂しくならない場を掌握する力、台詞なく佇んでいるだけでもパッと目を引く存在感。(といっても表情やしぐさなどずっと演技されているわけだけど。)

 敵じゃない=主人公陣営だから、その時は主人公に遠慮して意識的にオーラを抑えているんだろうか。一幕最後の合唱は瀬央さんに思わず目を奪われる。

 

ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン:天飛 華音

 貴族らしい優雅なふるまい、王妃にとって一番大事なものが「家族」だとわかっている賢さ、彼女の決断が自分の希望と反するものでも受け入れる強さとやさしさが素敵。これは王妃様も好きになってしまうのも納得。

 

舞空瞳さんは相変わらずスーパー娘役だったし、今後処刑台への道を突き進むことを予感させる極美さんのロべスピエール、妻の浮気を知りながらも「彼と別れていいのか、国に帰ってもいいぞ。」と声を掛けられる愚かだけど優しい王様も、専科の輝月さんも魅力的だった。小桜ほのかさんのソレーヌも、一番普通の女の子な感じが好き。群像劇はやっぱり楽しい。

今後こんな事態は発生しないでほしいけれど、でもやっぱり贅沢な体験だった。